私が伝統的部族社会から学んだこと

教授:いい質問ですね。私たちは伝統的社会と現代社会があたかもまったく別のものであるかのように対比させるワナに陥りがちですが、日本でもアメリカでも、現実には現代社会のなかに伝統的なものが存在しています。

 毎年夏になると、私は家族とともにモンタナ州へ行きます。モンタナは田舎です。ハワイとアラスカを除くアメリカの48州のなかでもっとも人口密度が低い州です。

 モンタナの牧場主の間でもめごとが起こっても、弁護士も警官も呼びません。お互いにこれまで20年間隣で暮らし、さらにこの先50年間も隣にいることを知っています。もし私がその1人と揉め事を起こしたとしても、警官を呼ばず、平和的に議論できなければなりません。近所の人と言い争いになったとしたら、日本の田舎でも同じだと思います。弁護士も警官も呼びに行かないし、伝統的なやり方で話し合いをするでしょう。日本でもアメリカでも、現代社会のなかに伝統的社会が依然として存在しているというのはこういうことをさしています。

大塚:確かに、日本ではアメリカほど裁判はしないので、そういう意味では伝統的なやり方でものごとを解決していると思います。ところで、『ナショナル ジオグラフィック』は今年125周年を迎えるにあたり、「探求の新たなる時代」というテーマを掲げていますけれど、生物学から生理学、鳥類学、進化生物学、人類生態学、そして地理学まで、教授の幅広い探求心はいったいどこから湧いてくるのでしょうか。

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教授:私の探求心の源泉は2つあります。これは私の選択ではありませんが、ひとつは両親です。

 母はプロのコンサートピアニストであると同時に、語学の教師でもありました。言語学者といってもいいぐらいです。言葉を覚えるのが得意で、書くのも好きでした。私が3歳のときから、母は読み方を教えてくれましたし、両親はラテン語とギリシャ語の学校に通わせてくれて、高校のときにはすでに4カ国語ができました。また、6歳のときに母はピアノを教えてくれました。音楽はずっと私の人生でとても重要な位置を占めています。音楽と言葉に興味を持つかたわらで、内科医の父は研究も行っていましたから、早い時期から科学にも興味があり、私はその道に進むことに決めていました。というように、両親が私の興味を伸ばしてくれました。

 もうひとつは大学にも恵まれていたことです。ハーバード大学を出てから、イギリスのケンブリッジに行き、またハーバードに戻ってきましたが、その間ずっとひとつの分野に縛り付けられたことはありません。

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