私が伝統的部族社会から学んだこと

大塚:すると、伝統的な社会から教授が学んだものを実践されて、成功した例というふうにとってよろしいんですね(笑)

教授:ええ。成功例ですよ。

 私が伝統的社会から影響を受けたもうひとつの例は……、そうですね、事故にあったときのお話をしましょうか。

 伝統的社会のニューギニアには、医者も警察もいません。もしあなたが事故にあったら、高い確率で障害を持つことになるか、命を失うかします。私たちはどうでしょうか。私は昔、氷の上で転んでしまい、足を捻挫したことがありましたが、医者である父が病院に連れて行ってくれたおかげでいまはなんともありません。

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 ニューギニアではミスを犯したらトラブルに巻き込まれます。そのおかげで、ニューギニアの人々はミスに対してとても注意深い。彼らは何が本当に危険かをよく考え、危険をはっきりと認識しています。

 ひるがえって、私たちアメリカ人は危険についてそれほどはっきりとらえていません。試しに何を危険と感じるかアメリカ人に聞いたら、テロ、飛行機事故、遺伝子組み換え穀物などと答えるでしょう。ところが、アメリカの新聞の死亡記事を見ればわかるように、これは日本でもおなじだと確信できますが、たとえば私のように75歳の人間にとっていちばん多い怪我あるいは死亡事故の原因は転倒なんですよ。シャワー、歩道、はしご、階段などでの転倒です。

 したがって、今日、私がやったなかでいちばん危険な行為はシャワーを浴びたことでした。私は毎日シャワーを浴びます。当然、シャワーはちっとも怖くはありません。でも、私はニューギニア人から学んだので、細心の注意を払っています。「それはまったくバカげた話ですね。シャワーで滑って転ぶ確率はどのぐらいですか? 1000回に1回?」とおっしゃるかもしれませんが、私はいいたい。「1000回に1回でも十分危険です。私は75歳です。統計からすれば、90歳まで生きそうです。ということはあと15年。15掛ける365で、あと5475回シャワーを浴びることになる。もし私がシャワーで注意をしなかったら、これから90歳になるまでの5475回の間に5回半も自分を殺してしまいます」。

 こういうことを私はニューギニアから学びました。ニューギニア人は人生における危険を明確にとらえています。おかげで私は本当の危険がシャワーやはしごや階段の上り下りに潜んでいることに気がついたのです。私がこの建物で階段を上り下りするのをご覧になったのであれば、いつも手すりにつかまっていたことに気がついたでしょう。転んで障害を持ちたくないですし、テロにあうよりもずっと怖いと思っていますよ。

 シャワーを浴びるときはくれぐれも注意してください。階段を上り下りするときは手すりにつかまってください。これはみなさん全員におすすめします。あなたの友人はバカげていると言うかもしれません。しかし、なんと言われようと、あなたは足の骨を折ることはないし、友だちには転んで足を骨を折らせておけばいいのです(笑)

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