それは、「35億年前の深海熱水の海底下にメタン菌と硫酸還元菌の活動が存在していた事を35億年前に封印された太古の熱水のかけら(流体包有物や硫化鉄鉱物)からの微小試料同位体比分析によって証明」という研究だった。ボクらの求人条件にぴったりの内容じゃないか。

しかも上野雄一郎はクールでかっこ良かった。ボク好みだった。もちろん「お肌ピチピチの朝まで生テレビ」世代だった。

「この男! すぐ使える!」

本物の深海熱水を見せてやる

ボクは多少ナマイキ盛りの上野雄一郎さんを捕まえてこう言ったんだ。

「上野さん。35億年前の深海熱水ガーとか吹聴しているみたいだな。それに最近、初期地球環境研究の若手のポープとかチヤホヤされているみたいだけど、オメエ、一度でも実際の深海熱水見た事あんのか? あ? 見た事もないのに、深海熱水ガーとか言ってんの? それでも地質学者か! オレがオメエに本物の深海熱水を見せてやる。ついてこい!」

上野雄一郎は見た目に反して押しに弱いタイプだった。「えー。どおしよっかなー」とか言ってるうちに勝手にボクらのお友達1号にされてしまっていた。

そしてボクの講演の番がやってきた。もう完全に上から目線状態だったので、かなりエラソーな態度で発表したかもしれない。ただし、聴衆が興味を持って聞いているかどうかは、演台からはよくわかるものなのだ。十分手応えはあった。

講演が終わるやいなや、一人の男が「シュビッ」と手を挙げた。顎が発達した咬合力の強い肉食獣の雰囲気を漂わせた漢だった。

言わずと知れた地質学界の大御所、丸山茂徳、その人だった。

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