第11 回 「正しい養殖」を求めて

 それなら、養殖の魚介類は?
 養殖のエビは、ほとんどが沿岸域のマングローブや低湿地、リーフなどを養殖池にしている。つまり、きわめて重要な沿岸の大規模な喪失を伴っている。カニ類は成長の過程で次々に食性が変わるため、卵から成体まで育てるのはどの種にしても難しく、「養殖」には不向きだ。幼生期に捕獲し、商品になる大きさに成長するまで飼育するのでは、本当の意味での養殖とは言えない。それがカニであれマグロであれロブスターであれ、売るために「太らせている」だけだ。

 典型的な家畜は1年以内に市場に出せる大きさになるが、たとえば肉食系のカニであるストーンクラブの場合は、卵から若い成体になるだけで3~4年かかる。大型魚についても問題は同じだ。若いクロマグロを生簀で育てるというやり方は、激減したこの魚の個体数が回復するチャンスを大きく損なうことになるし、価格を相応に引き上げないかぎり経済的に実現性がない。

 カキをはじめとする貝類も「養殖」が行われているが、卵から市場に出せる大きさになるまではやはり2年から4年かかる。また、餌になる野生のプランクトンは「ただで手に入る」とはいえ、それは生態系から抽出されるものだ。天然の貝類は生態系の一部であって、海の化学サイクルのなかでそれぞれ決められた役割を担っている。養殖された貝類が遠く離れた市場に売られるたびに、こうした要素が生態系から奪いとられてしまうのだ。

 サケ養殖は1960年代から拡大の一途をたどっているが、いくつかの理由で論議の的にもなっている。狭い空間で多数を飼育することから病気が発生し、その対策として大量の抗生物質や化学的忌避剤が使われる。時にはサケが外へ逃げ出すこともあり、天然個体群と交配したり生息地を奪ったりする危険や、病気を蔓延させるなどの懸念も生じてくる。さらに、ほかの生物にも影響が及ぶ。鳥、アシカ、アザラシ、イルカなどは害獣とされ、サケ養殖場の周囲では「駆除」されてしまうのだ。

 このように懸念や難題は多々あるが、水産養殖が広く定着していることは疑いない。私たちは、これ以上海の野生生物を奪い取ることなく海から食料を得るための持続可能な方法を、今こそ真剣に考えなければならない。


つづく

シルビア・A・アール

シルビア・A・アール

1935年米国ニュージャージー州生まれの海洋探検家、海洋学者で、ナショナル ジオグラフィック協会付き研究者。ニューヨーク・タイムズ紙から「深海の女王陛下」「チョウザメ将軍」などのニックネームを与えられ、1998年にはタイム誌の「地球のヒーロー」に選ばれた。海洋生態系調査における第一人者として総計6500時間以上、70回を越える潜水遠征をし、水深1000メートルでの単独潜水を含むさまざまな潜水歴をもつ。2009年には、「世界を変えようとしている人物」に毎年贈られるTEDプライズを受賞した。著書に「ワールド・イズ・ブルー」「深海の女王がゆく」など。

古賀 祥子(こが さちこ)

東京外国語大学外国語学部英米語学科卒。翻訳家。『なぜ女は昇進を拒むのか』(共訳、早川書房)、『アイデアマップ』(阪急コミュニケーションズ)、『この「聞く技術」で道は開ける』(PHP研究所)などの訳書がある。