第44回 ハキリアリは農業を営む(パート2)

セファロテスハキリアリの大型働きアリと小型働きアリ
Atta cephalotes Maxima worker (soldier) and Minima worker
大型の「兵隊」働きアリ(左)は、頭の幅が5ミリもあり、小型働きアリの体長を上回る。働きアリが大型、中型、小型に分かれるのは、幼虫期にどれだけの量の食糧(キノコ)を与えられたかによるそうだ。
体長:小型働きアリ 3 mm、大型働きアリ13 mm 撮影地:シキレス近辺、コスタリカ(写真クリックで拡大)

 前回はハキリアリが森の木々から葉を切り取り、行列をつくって巣に持ち帰るところまでを紹介したので。今回はその続き、巣の中の話。

 森を歩いていると、開けた道沿いに20~50センチほど盛り上がった土の丘を見かける。それは、セファロテスハキリアリが巣を掘ったときに地中から土を運び出し、積み上げてできたアリ塚だ。

 このアリ塚の下に、ハキリアリの巣の中枢がある。多くの部屋がトンネルでつながっていて全体の大きさは乗用車1台分ほど。中央にあるラグビーボール大の何百もの部屋が「キノコ園」、その周辺にある外側の部屋が「ゴミ処理場」になっている。

 ひとつの巣には400~500万匹のアリ(コスタリカの人口と同じぐらい)がすんでいるが、そのほとんどは、大きさの違う3種類の働きアリのうちの小型働きアリだ。アリたちは、葉を細かく刻んで菌床をつくり、「キノコ園」でキノコを育てる。この部屋には卵や幼虫、サナギなどもあって、これらの世話も小型働きアリの仕事となる。

 「ゴミ処理場」は、アリの死骸や使い古した菌床を廃棄する部屋だ。廃棄された菌床には窒素などが多く含まれていて、それがやがて土に還り、森をより豊かにする。ハキリアリたちは、持続可能な「農業」の大先輩であり、森を育む大切な役割も担っているのである。

セファロテスハキリアリ(ハチ目:アリ科:ハキリアリ属)のアリ塚
A nest mound of Atta cephalotes leafcutter ants

撮影地:モラビア・デ・チリポー、コスタリカ(写真クリックで拡大)
土を運び出すセファロテスハキリアリの小型働きアリ(左)と巣穴の出入り口を守る大型働きアリ(右)
Minima workers carrying out bits of soil and Maxima workers (soldiers) guarding the nest entrance

土の粒をくわえたアリたちが次々と穴から出てきて、数センチから数十センチほど離れたところに落としては、穴へと引き返す。土の粒の大きさは約2ミリ。大型の「兵隊」働きアリたちは、穴付近でゆっくりと動いていて、敵を察知するとそれに向かって突進する。
体長:小型働きアリ 3~4 mm、大型働きアリ13~14 mm 撮影地:モラビア・デ・チリポー(左)、シキレス近辺(右)、コスタリカ(写真クリックで拡大)
セファロテスハキリアリのキノコ園の中
Inside the fungal garden of the leafcutter ant, Atta cephalotes

女王を取り囲む小型働きアリたち(左)。見張りをする大型働きアリの姿も見える。右は、幼虫やサナギ(白い半透明)を世話する小型働きアリ。白いのが菌糸、黄土色が菌床、茶色が土。女王は20年以上生きることもあるという。
撮影地:サラピキ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
ハキリアリが栽培しているキノコ、レウコアガリクス・ゴングリオフォルス(Lepiotaceae科)の菌糸体
The fungal mycelium of Leucoagaricus gonglyophorus
ハキリアリと共生している菌類(キノコ)。アリたちは菌糸体を食べる。子実体(胞子を持つ傘の部分)は、アリの巣の中ではふつう成長しない。
菌糸の丸い玉の大きさ:約0.5ミリ 撮影地:サラピキ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html