「この会場に産業スパイがいる」


 2004年、カンドール氏の講演会が日本で開かれた。
 粒子の動きのシミュレーションに興味のある人ばかりが集まる。すでにJAMSTECに所属していた阪口さんも聴講者として出席した。
 するとカンドール氏は客席を見渡しながら、「この会場の中に、産業スパイのような人物がいる」と冗談を言った。

 阪口さんのことだ。

「そいつは商売は下手だが、能力はある。大量の粒子を扱ってシミュレーションをしたいなら、私よりもそいつに話を聞いた方がいい」

 それがきっかけで、阪口さんですら「それはこの研究とは関係ないのでは」と言いそうになる案件も、阪口さんのもとへと舞い込むようになったのだ。

 それから約10年。コンピューターは、劇的に進化している。

「『地球シミュレータ』を使えば、100億粒子くらい扱えます。今でも常に、僕のソフトでは他の人のものより2桁くらい多くの粒子を計算できていて、まあ、ドケチでビビリの精神が生んだアルゴリズムですよ(笑)」

 ぜひ、その地球シミュレータも見せてください。
 ここ、JAMSTEC横浜研究所には、スーパーコンピューター・地球シミュレータが設置されているのだ。
 それから、阪口さんの実験室も見てみたいです。

 阪口さんは、シミュレーションだけをしているわけではない。シミュレーション結果が現実とかけ離れていないかの実験も、ちゃんと行っている。

 実験室には、どんなものが置いてあるんですか。

「そうですねえ、エアホッケーの台とか」

 エアホッケー。息抜き用だろうか。

 いぶかる取材陣を、阪口さんは先導してくれる。
 廊下の先、実験室のドアを開けると、確かに、エアホッケーの台がある。

 日々、エアホッケーに興じている。わけではないことは、取り付けられた装置を見ればすぐにわかる。

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