第3回 雪国の冬を安全、快適に過ごすために

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 というわけで、佐藤さんは、雪国に住む人たちが、冬を安全に快適に過ごせるよう、センターを挙げて研究を進める、というわけだ。

 例えば、前にも述べた、屋根の雪下ろし作業中の事故は、大きな問題だ。

「実は、屋根雪は、まず近所迷惑なんです。80年代後半から、しばらく雪の少ない時期が続いたので、家を新築した人は、結構、敷地ギリギリにつくってしまって。それから最近はソーラーパネルを屋根に付ける家があるじゃないですか。あれなんかもう滑りやすいもんだから、ザーンと滑り落ちたのが隣の敷地に飛び込んで、隣の家の窓とか車を壊したとかね。そんな事故もあるんですよね。雪国特有なんですが、夏の間は仲良しでも、冬になると『おたくの雪こっちにきた』とか諍(いさか)いがある」

 積もった雪は近所対策として早めに処理しなければという心理的圧力もあるのかなと想像する。そして、毎年100人以上が亡くなっているというのは、別に理由はそれだけではないだろうが、切ないことだ。かといって、自分の家の屋根の雪を下ろすというのは、とても、個人的というか、世帯的なことであり、行政レベルでの施策はなかなか難しいようだ。

「やっぱり、啓発が中心になるんですね。2000年以降の大雪の年の事故データから屋根雪が関係したものを拾い出して、気象条件を統計解析した研究をしています。その日の最高気温と、事故が起こった日の前の7日間でどのくらい雪が積もったかですとか、そういうところに注目するんです。すると、最高気温の範囲がこのぐらいで、過去1週間に降った雪の量がある程度以上であれば、事故が起こりやすいというのが見えてきました。山形県では、それを元に注意喚起の基準を作っていますので、今後、他県にも広がっていくのではないかと期待しています」



つづく

佐藤威(さとう たけし)

1954年、秋田県生まれ。防災科学技術研究所(NIED)雪氷防災研究センター長。理学博士。東北大学大学院で大気境界層物理学を専攻し、東北大学理学部助手を経て、1988年、国立防災科学技術センターの新庄雪氷防災研究支所へ。主に地吹雪の研究を担当する。2001年、新庄支所長になり、2011年より現職。特に、吹雪の発達やそれによる視程障害について野外観測や低温室における実験により予測モデルを開発し、また、屋根雪の滑落条件の研究などに基づき、事故発生危険度の基準を策定した。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
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