第7話(最終話) 新たな「愛と青春の旅立ち」へ
その3 「人類究極のテーマ」に挑むための作戦会議
「研究者によって、試算はいろいろあるんですが、極端な見積もりでは太古代初期の海洋底は、ほとんどすべてがコマチアイトに覆われていたという計算もあります。が、少なく見積もった場合でも現世の海洋底のカンラン岩と比べてハンパないぐらいはあったんじゃないでしょうか。そもそも太古代の海洋底というのは、○♠◉♦▽※◒♧☆■(以下エンドレス独演会が続く)」
謙太郎君は熱くなると話が永遠に続くタイプだった。そして熱烈におしゃべりだった。最初の出会いがコレだったので、「ボクは極度の人見知りで、人前ではあんまり自分からしゃべれないんですよね」と謙太郎君が言う度に、「いくらなんでもそれはあまりに見え透いた嘘だ」と心の中では突っ込みを入れていた。長くつき合うにつれ、それが嘘でない事もわかるようになったが。
とにかく謙太郎君の解説によって、生命が誕生したであろう約40~38億年前の海洋底には、現世の海洋底で見られるカンラン岩とは異なるが、コマチアイトという別のタイプの超マフィック岩が普遍的に存在し、その蛇紋岩化反応による深海熱水が至る所に存在していた可能性が極めて高いということが分かった。
この謙太郎君の鼻の穴を膨らませた独演会を聞きながら、ボクは「勝った!間違いなく勝った!」と確信し、秘かな喜びに打ち震えていた。これですべてのピースが埋まったと思った。
約40~38億年前の海洋底に、コマチアイトという超マフィック岩が大量に存在していたなら、高濃度水素の熱水は至る所にあったはずで、現在のインド洋のかいれいフィールドのようなハイパースライムを誕生させ持続させる「最古の生命のゆりかご」がたくさんあったはずだ。
ボクにとって生命の誕生へのアプローチにおける最重要項目は、可能か不可能かの議論ではなく、その可能性と普遍性の大きさの議論だったんだ。
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