第26話 涙の味? ライチョウを食す。
そもそも、このロッジ周辺は、いつも橇犬たちが騒々しく吠えていて、ほとんどの野生動物が寄りつこうとしない寂しい森になっている。
そのなかで、唯一、微笑ましく飛び回っていた、つがいのグラウスたちだ。
だから、この冬ずっと、私たち人間の暮らしのそばで、生きていて欲しかったのだ。
そんなこともあって、スティーブの彼女が、嬉しそうに獲物を見せたとき、私は、
「ああ、なんて非情…」
これは、メルヘンの森に起きた、悲劇だ……。サスペンス劇場だ……。13日の金曜日だ……。
「いや、これはもう、事件だ!」と、パトカーのサイレンを鳴らして、すっ飛んで行きたくなるような心理状態だったのである。
スティーブの彼女というのは、一見、ジャンクフードが好きそうな、典型的なぽっちゃり体形のアメリカ人である。
話してみると、意外にも知識人で、受け答えもはっきりとしている、しっかり者だった。
スティーブとの結婚を考えているようで、はるばる故郷のコロラド州から、原野での暮らしを学びに来ていて、いわゆる、アラスカの森の男に嫁ぐための、嫁入り修業というワケだ。