第7話(最終話) 新たな「愛と青春の旅立ち」へ
その2 ボクの熱意とジタバタだけではどうしようもない問題
カンラン岩は本来、海底から地殻の厚い壁を隔てたさらに深くにある、上部マントルの支配者である。そのカンラン岩が海底近くに露出するなんて、よっぽどの条件が揃った極めて限られた場所でしかあり得ないと考えられていた。
いわば「カンラン岩の蛇紋岩化反応はロイヤルファミリー御用達の超限定品で、今なら先着XX名様だけに超特別価格でご提供!」みたいなノリだったのだ。(2012年の米国地球物理連合大会でジェームズ・キャメロンのマリアナ海溝有人潜水艇調査でマリアナ海溝の底にも蛇紋岩を発見!!みたいな大々的な発表があったり、今では蛇紋岩化反応=歳末バーゲンセールみたいな大盤振る舞い状態ではあるが)。
蛇紋岩化?それで?
ボクは、「中央インド洋海嶺かいれいフィールドの熱水に含まれる超高濃度水素を説明するためには、かいれいフィールドの周辺に蛇紋岩化反応、その材料たるカンラン岩が存在しているはずだ」と考えるようになった。慣れない地質学や地球化学系の論文を読みあさった結果、かいれいフィールドの熱水の水素濃度を説明するためには、熱水の蛇紋岩化反応しかあり得ないという結論に達したからだ。
しかし、このアイデアを日本最初の熱水博士の黒メガネ石橋純一郎氏や日本の熱水化学の専門家達に投げかけても、イマイチな反応だった。「ふーん」とか「それで?」とか暖簾に腕押し状態だったんだ。それは仕方のないことだったかもしれない。当時(今でもそんなに状況は変わっていないけれど)、海底蛇紋岩化流体の専門家は日本にほとんど皆無だった。
さらに、そのアイデアを検証するためには、熱水化学だけでなく岩石学や地質学の専門家の協力が不可欠だったし、海底でのカンラン岩や蛇紋岩探査も行わねばならなかった。つまり、ボクの直感と熱意とジタバタだけではどうしようもなかったんだ。
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