第7話(最終話) 新たな「愛と青春の旅立ち」へ
その2 ボクの熱意とジタバタだけではどうしようもない問題
「ハイパースライム」はなぜ、中央インド洋海嶺かいれいフィールドには見つかり、それまで調査を重ねてきた日本周辺の沖縄トラフ、伊豆小笠原火山弧、パプアニューギニアのマヌス海盆の深海熱水環境には見つからなかったのか?
その理由は、おそらく熱水に含まれる水素の量が、かいれいフィールドでは非常に高濃度であるのに対して、他の熱水ではとてもショボイためであろうと、ボクは早々に気付いていた。
そして「その場の環境に存在する水素の量がハイパースライムの成立の成否を握るに違いない。おそらくそれは太古の地球における最古の生態系についても当てはまるはず。いや絶対そうだ!」という直感を抱いたんだ。そうなれば、「最古の持続的生命が誕生、繁栄した場とその成り立ち」が美しく説明できる。ボクの中にその直感が降りてきた瞬間の身体や精神のビリビリ感は過去最強で、もうそれは、ボクには絶対的真実としか思えなかったんだ。
どうして水素が満ちあふれているのか?
ただ「そんな直感にボクはビリビリと震えているよ」(注:笑い飯の漫才ネタ「アリ」からの引用)とは別に、なぜ中央インド洋海嶺かいれいフィールドの熱水がそんなに水素に満ちあふれているのかについては、最初、全くわからなかった。
かいれいフィールドの熱水の水素濃度は、当時の世界ランキング第3位だった。1位は大西洋中央海嶺のレインボーフィールド、2位は同じく大西洋中央海嶺のロガチェフフィールドで、その二つについてはカンラン岩が原因で水素濃度が高い(にちがいない)というのが業界の評判だった(しかし当時は、その関係性はまだはっきりと論文化されておらず、地下でまことしやかに語られていたのみだった)。カンラン岩は、水と反応すると蛇紋岩という鉱物に変質するが、それと同時に水素も生成するのである。
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