第2回 体罰よりも強い恐怖を感じた瞬間

 カダフィ理論をまとめた「緑の書」で彼は、政党をつくるものは卑怯者だ、代議制は詐欺だと書いています。カダフィは77年に直接民主制を打ち立てたときに「私の喉が渇いたら、あなたの喉は渇きますか」というスピーチをしています。同様の3つの例を挙げて「私の感じていることは、私にしか話せない。だから、代議制は成立しない」というのです。

 そこで僕は、代議制をとっているアメリカがジャマーヒリーヤを採用するとしたら、どうなるだろうと考えて発言したんです。当然、ジャマーヒリーヤの採否を議会が多数決で決めるわけですが、それは議会が議会を否定することになります。そんなことが起こりうるでしょうか。

「リビアがジャマーヒリーヤになったのは、カダフィがクーデターを起こしたからでしょう。誰も投票はしていませんよ」と僕は言ったのです。すると、先生は真剣な顔をして、凄みのある低い声で「言っていいことと悪いことがある」と、僕を叱りました。

 ゾッとしました。教室全体が凍りついたような空気になった。リビアの学校には体罰があるのですが、それは体罰よりも強い恐怖を感じた瞬間でした。

――話に聞くだけでも、背筋に悪寒が走ります。もう少し続きを聞かせてください。

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つづく

アーデル・スレイマン

1987年、東京生まれ。リビア人の父親と日本人の母親をもち、国籍はリビア。6歳から19歳までリビアで暮らし、2006年にふたたび来日する。日本では通信社などの仕事を経て、現在は慶應義塾大学に在学中。


高橋盛男(たかはし もりお)

1957年、新潟県生まれ。フリーランスライター。自動車専門誌の編集を手がけたのちフリーライターに。JR東日本新幹線車内誌「トランヴェール」、プレジデント社「プレジデント」「プレジデントファミリー」などに執筆。