実は、仔犬の頃のアンには兄弟姉妹がいた。
アン以外はみんな、耳もちゃんと聞こえている健常な仔犬だった。
アラスカでは、橇犬の子として生まれた仔犬でも、ペットとして譲渡することが多い。
橇犬の子でも、アスリートとしての素質を持って生まれるのは、1匹か2匹であるから、大抵の場合、優秀そうな仔犬だけを残して、あとは、貰い手を探すことになる。
トーニャは、すでに十分な数の橇犬を所有していたため、全ての仔犬たちを手放すつもりでいた。
橇犬は、頭がよく、人懐っこい。理解力があって、しつけ易いために、ペットとしても人気があることから、すぐにも仔犬たちの養子先が決まり、みんな都会に住む家庭のもとに貰われていったのだという。
ところが、アンだけは、いつまでも貰い手が見つからず、残ってしまっていたのだ。
理由は、言うまでもなく、耳が聞こえない仔犬だから、である。