第24話 奇しくも、たった1匹残されたアンの宿命

 私は少々、疑うようにスティーブを見ると、彼はエクボを深めて笑いだした。
「実はさ、本当にアンには、お手上げだったんだよ。トーニャなんて、聞こえないのに、アンに怒鳴っているときもあったくらいだよ。ははは」

 スティーブの話を聞いて、頭から噴煙を上げているトーニャの姿と、ポカンとしているアンの姿が見えたような気がした。

 きっとトーニャ自身、アンには、もどかしく、じだんだを踏むような思いをしていたに違いない。

 それでもアンは、この冬も橇犬として生きていく。

 いったいアンは……、耳の聞こえない橇犬として、どんな走りをするのだろうか?

 私は、アンと走る日が楽しみだった。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/