第24話 奇しくも、たった1匹残されたアンの宿命

 それは、ある意味、当然だった。

 耳が聞こえない仔犬をしつけることも、その後10年近くも世話をしていかなければならないことも、普通の人には、荷が重過ぎる。 

 健常な体に生まれ、橇犬の子として生まれながらも、ペットという安寧の道を手にした兄弟たちとは裏腹に、無情にもアンは、聞こえない耳で、もっともマッシャー(橇使い)の指示に耳を傾けなければならない犬橇の世界に身を投じることになったのだった。

 そのことを教えてくれたスティーブに、私は少々、感情をむき出して言った。
「私だったら、アンのような仔犬こそ、家で飼ってあげるわ!」

 けれど、スティーブは落ち着いた声で言う。
「でもアンは、橇犬として生きていくほうが好きだよ。きっと」

「え、どうして?」
 そう言いながらも、私はスティーブの真意が分かるような気もした。

 もしも私がアンのような立場だったとしたら、やはり橇犬として生きているだろう。

 もちろん、お金持ちの家で、美味しいものをお腹一杯に食べさせてくれるような飼い主さんに引き取られたいと思うけれど……。

 橇犬と生まれたならば、橇犬として生きていくのも、悪くはないような気がする。

 ほとんどの犬が、ペットとして生きていくこの時代、橇犬という役割をもって生きていく犬は、ほんの一握り。

 言ってみれば、歌舞伎役者の下に生まれて、それを継いでいくようなもので、ある意味、選ばれて生まれた者だけの世界という感じもするからだ。