第42回 アリの「フタ」を開けてみると?

セファロテス・セトゥリファー(アリ科:キバハリアリ亜科:ナベブタアリ属)の働きアリ(フタ型)
Major worker ant of a ‘turtle ant’, Cephalotes setulifer
丸いお皿のような頭をもつ働きアリを正面から見たところ。お皿は硬い。兵隊アリと呼ばれることもある。
頭の幅:1.5 mm 撮影地:エル・ロデオ保全区域、コスタリカ(写真クリックで拡大)

 2カ月ほど前、ジンガサハムシを飼育しようと、餌になる木の枝とともに自宅に持ち帰ったときのことである。飼育袋の中に、黒にオレンジの模様をしたロボットのようなアリが歩いているのに気付いた(一番下の写真)。

「もしかしてこれは?」

 飼育袋の中の木は、コルディア・アリオドラという中南米に分布する30メートルにもなる植物で、枝の分かれる部分に膨らみがある。この虫こぶのような膨らみに、さまざまな樹上生のアリがすんでいると大学の先生に教わっていた。
 これまではあまり気にもせず素通りしていたのだが、もしかしてこの飼育用の枝にもこんなアリがいるのかもと思い、膨らみをメスでスパッと切ってみた。

 「うおっ!」ぼくは目を見開いた。
 アリたちがあたふたしながら幼虫や蛹を守るように隅っこへと移動させているのだが、たくさんいる「ロボット型」働きアリのなかに、なんかヘンなかたちをしたのがいるではないか!

 円盤のような頭をしたアリ!
 もしかしてと思って巣の出入り口の穴を見ると、案の定、その頭でフタをしている! なるほど!
 ロボット型もこのフタ型も同じ種だが、どうやらそれぞれの役割ごとに違う形をしているらしい。

 調べてみると、このアリはコルディア・アリオドラの膨らみがなくては生きていけない種であること、そして他の種のアリたちが巣に侵入しないように、出入り口を硬い頭の扉で閉ざしていることを知った。

 ふだん知っているようなことも、実際にフタを開けてみると新しい世界がそこには広がっていることを痛感した。

コルディア・アリオドラ(ムラサキ科)の枝に備わったアリの巣
An ant domatium of Cordia alliodora (Boraginaceae)

膨らんだ部分にアリの幼虫7匹、サナギ3匹、「ロボット型」働きアリ20匹、「フタ型」5匹、それとコナカイガラムシが2匹いた。「フタ型」が開けた部分を取り囲んで防御している感じがうかがわれる。中は空洞で、虫がつくった「虫こぶ」ではない。
大きさ:30 x 10 mm 巣の壁の厚み:約 2 mm 撮影地:エル・ロデオ保全区域、コスタリカ(写真クリックで拡大)
コルディア・アリオドラの枝の膨らみにあるアリの巣の出入り口の穴(矢印)
穴をふさいでいる「フタ型」働きアリの頭が見える。カメラのレンズを近づけたりすると、ちょっと奥に入ったり手前に出てきたりと、こちらの様子が見えているのかもしれない。「ロボット型」が出入りするときは、頭を引いて道を開ける。
穴の直径:約1.5 mm 撮影地:エル・ロデオ保全区域、コスタリカ(写真クリックで拡大)
セファロテス・セトゥリファーの「ロボット型」働きアリ
Minor worker ant of a ‘turtle ant’, Cephalotes setulifer

巣の外へ出て歩いているのを見かける。植物の蜜や花粉などを食べるようだ。そして、おしりの先から栄養物を出して、巣の中の他のアリたちや幼虫に食料を与えるという。
体長:4.2 mm 撮影地:エル・ロデオ保全区域、コスタリカ(写真クリックで拡大)
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html