第23話 犬の正しい吠え方発音でお願いします!

 アンは、自分の声さえも聞こえていない。

 だから、普段の鳴き方もとてもヒドく、「ワン! ワン!」ではなく、「ぎゃ~あん、あぁん、ぎゃ~あん、あぁん」と鳴くのだ。

 感情に任せて、喉の奥から息を吐き出しているだけで、ワン! という正しい発音に完成されていない。

 ときどき、捕食動物に食べられる小動物のような、悲鳴に似た吠え方をするものだから、耳を塞ぎたくもなるのである。

 そんなアンに、私は「犬の正しい吠え方」というものを教えたくて仕方がなかった。

 けれど、
「ほら、ワン! と吠えてみて、ワン!」
 と言ったところで、アンには聞こえていないし、理解もできない。

 はてさて、どうすればいいのやら……。 

 考え巡らしてみたけれど、一向に、答えは出る由もなかった。

つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/