第10回 海を守る法律と、国際的な取り組み

 1688年から1730年までの間、ジャマイカの広大なイギリス領に食糧を供給するため、専用の漁船団がグランドケイマン島に押しかけ、毎年1万匹以上のカメを捕獲した結果、18世紀末にはこの島にカメの姿はほとんど見られなくなった。19世紀末にかけてカメ漁はカリブ海全域に広がり、想像どおりの結果を招くことになる。

 20世紀後半になると、この地域の産業は農業や漁業から観光業に大きくシフトした。かといって漁業がなくなったわけではない。新たな需要が生まれ、かつては行けなかった海域へ行く技術が普及したことで、むしろ漁業圧は増した。底引き網漁によって多くの生物が失われただけでなく、繰り返し網でさらわれた海底は広く破壊された。

 カリブ海地域の人口は1970年代から21世紀初頭までに2倍以上に増えた。これに伴って海洋に生じた問題は歴然としている。汚染源、沿岸開発、沿岸生息環境の喪失、きわめて貴重な魚類やその他の種の減少などなど、ありすぎて悲しくなるほど。そして、それを解決するのはさらなる難題だ。

 1年かけてさまざまな海域や課題の分析結果が集まったところで、1週間の会議で活発な討論が行われた。その後2年間の追跡協議をへて、主要提言が発表されたのは、2005年のことである。このDOE会議以後に開催された環境関連の国際会議では、いずれも早急な行動の必要性が力説されている。

 魚や木々、野生の地が今より多かった時代に魔法のように戻ることはできないが、このまま何もしない場合よりも明るい未来を作ることはできる。今私たちが行動に移すことのできる選択肢に、残された時間は少ない。今やらなければ、永遠にチャンスを逃すことになるだろう。

 海洋生態学者のカール・サフィナは著書『海の歌』で次のように問いかけている。

 それでは、どちらなのだろうか? 荒廃か回復か、欠乏か豊かさか、哀れみか欲か、愛か恐怖か、よいほうに向かっているのか悪いほうに向かっているのか? 結果は、行動するかまたは行動しないかのどちらを選ぶかによる。


つづく

『ワールド・イズ・ブルー』(シルビア・アール著)

この連載は、書籍「ワールド・イズ・ブルー」(シルビア・アール著)から抜粋、編集したものです。書籍の紹介はこちらをご覧ください。
シルビア・A・アール

シルビア・A・アール

1935年米国ニュージャージー州生まれの海洋探検家、海洋学者で、ナショナル ジオグラフィック協会付き研究者。ニューヨーク・タイムズ紙から「深海の女王陛下」「チョウザメ将軍」などのニックネームを与えられ、1998年にはタイム誌の「地球のヒーロー」に選ばれた。海洋生態系調査における第一人者として総計6500時間以上、70回を越える潜水遠征をし、水深1000メートルでの単独潜水を含むさまざまな潜水歴をもつ。2009年には、「世界を変えようとしている人物」に毎年贈られるTEDプライズを受賞した。著書に「ワールド・イズ・ブルー」「深海の女王がゆく」など。

古賀 祥子(こが さちこ)

東京外国語大学外国語学部英米語学科卒。翻訳家。『なぜ女は昇進を拒むのか』(共訳、早川書房)、『アイデアマップ』(阪急コミュニケーションズ)、『この「聞く技術」で道は開ける』(PHP研究所)などの訳書がある。