第7回 米国宇宙ベンチャー最新レポート パサデナ編

「僕の父は、工場経営をしていて、アポロ計画の時には宇宙船の部品を受注していた。40人くらい従業員がいたんだが、アポロ計画が終わった時8人にまで減らさなきゃならなかった。僕は小さい頃から工作室に出入りしていて、学校よりもそこで多くのことを学んだ。母や母の友人には芸術に造詣が深い人が多くて、エンジニアリングとアートを同時に学ぶことができたんだ」

 という経歴からして、宇宙との縁がある。実際、宇宙飛行士になりたいと思っていたこともあった。ハリウッドの仕事でも、役者が演じやすいように体温調整可能な装置を内蔵した宇宙服を提供したり、単に「衣装」以上のものを常に工夫してきた。

 そして、今、実際に「本物」を作り始めているというわけである。プロトタイプを見せてもらったが、写真に撮ることはできなかった。3層構造で、インナーに密閉性の高い素材を使い、真ん中には強度重視の素材、そして外側は耐熱耐火性能の高いもの。また、ヘルメットはシンプルな作りで、上げ下げできるサンバイザーなどは省いている。視界全部を暗めのサングラスというふうだ。動きやすさについて実際に自分自身で着て確かめている動画を見せてもらったが、必要な圧力の倍に与圧した状態でも、ぱっと見る限り動きが滑らかだった。宇宙服の動きやすさというのは、永遠のテーマだそうで、彼はこだわりを持っている。

 値段は、だいたい10万ドル以下で提供できそうだという。

 というと、なんと高価! と思われるであろうが、現行のNASAのフライトスーツは、クリスの見立てでは、5倍以上の値段で納入されているそうだ。もっとも、メンテナンスの必要もあって、それも込みの価格であるわけだが。

これは映画用の宇宙服。(写真クリックで拡大)

 非常に駆け足で、訪ねた宇宙ベンチャーを素描した。

 スペースシャトルの退役とNASAの方針転換など、多くの要素が絡み合って、現況がある。それらについてはまるっきり省略した荒っぽい紹介になったが、地上から宇宙までスコンと抜けた独特の雰囲気を感じ取ってもらえたらうれしい。

「本編」にて紹介した、日本から出でて米国でキャリアを積む高橋有希さんの「民間の宇宙飛行士になりたい!」という将来の希望が決して絵空事に聞こえない、素地がもうかの国には出来上がっているのだ。

(写真クリックで拡大)

おわり

※今回の取材にあたり、スペースフロンティアファンデーションの大貫美鈴さんにお世話になりました。高橋有希さんを紹介していただいたのみならず、モハベ、パサデナなどの「ニュースペース」企業については、取材のアレンジまでしていただきました。感謝申し上げます。

高橋有希(たかはし ゆうき)

1979年、米国イリノイ州生まれ。すぐに帰国し、日本で育つが、宇宙飛行士になることを夢見て高校入学時から米国に移住。2001年、カリフォルニア工科大学物理学部卒業。英国グラスゴー大学天体物理学部にて月面望遠鏡の提案に励み、2003年、修士課程修了。博士課程からはカリフォルニア大学バークレー校物理学部に籍を移して、宇宙の起源を探る望遠鏡を開発し、2010年、博士号を取得する。2011年から2012年まではスペースX社航空電子工学部門にてドラゴン宇宙船の開発に従事。現在はサンフランシスコの新しい宇宙ベンチャーで技術開発に携わる。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
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