第5回 ふたたび開かれた宇宙への扉

「2、3年後にスペースXに戻りたいという意志はあるんですよ。有人飛行にすごく興味があるので。それと、今、会社とは別に、International Lunar Observatory(国際月面観測)という民間プロジェクトに関わっています。それはまず最初に、Google Lunar X PRIZE(月面に純民間の探査機を着陸させ、着陸地点から500m以上走行し、指定された高解像度の画像、動画、データを地球に送信したチームに2000万ドルの賞金が与えられる)に参加しているチームの月面着陸機に小さな望遠鏡を実験として搭載する。次に、月面の南極点に着陸させてそこから望遠鏡で銀河などを観測する。さらにはその望遠鏡をアップグレードするために、有人のミッションを行う、ということを考えています。で、そのプロジェクトのリーダーが、よく冗談半分で言うんですけど、宇宙飛行士候補として、もしかしたら僕が適してるんじゃないかって(笑)」

大学院時代、子どもたちに宇宙について教える活動をしていたときのペットボトルロケットを持って。高橋さんのまっすぐな情熱はさらに若い世代にも受け継がれ、宇宙開発の道は未来へと続いている。
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 夢みたいな話だが、夢みたいなこと、例えば民間での宇宙開発が、今現実になっているのであり、民間宇宙船の有人宇宙飛行も本当に実現しそうな段階に来ている。アポロ計画で月に人類が到達し、そこからすぐさま宇宙へ全方位展開! とはならなかったことは、「あの頃」子どもだったぼくの世代には寂しいことではあるが、今、ふたたび扉が開かれた! そんな状況にあるのも確かなのだ。

「僕は何か冒険のために生きてるようなものなので、もっと冒険したいと思うんですね。10年、20年後くらいには多分、一般の人でも宇宙旅行ができるようになると思うので、その時はガイドになって、地球の美しさとかを他の人たちにも味わってもらえるようにしたい思うんです」

 そう屈託なく言う高橋さんにやはり鉄腕アトム、アストロボーイが重なって見える。20世紀の科学の子の気持ちは宇宙をめぐる分野でしばしば空回りしてきたような気がするけれど、21世紀の今、まっすぐな情熱が、空回りせずに力を発揮できる未来がようやく近づいてきたのかもしれない。

つづく

高橋有希(たかはし ゆうき)

1979年、米国イリノイ州生まれ。すぐに帰国し、日本で育つが、宇宙飛行士になることを夢見て高校入学時から米国に移住。2001年、カリフォルニア工科大学物理学部卒業。英国グラスゴー大学天体物理学部にて月面望遠鏡の提案に励み、2003年、修士課程修了。博士課程からはカリフォルニア大学バークレー校物理学部に籍を移して、宇宙の起源を探る望遠鏡を開発し、2010年、博士号を取得する。2011年から2012年まではスペースX社航空電子工学部門にてドラゴン宇宙船の開発に従事。現在はサンフランシスコの新しい宇宙ベンチャーで技術開発に携わる。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
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