第3回 ビッグバンはどうやって始まったのかを探しに

 その観測結果はすでに出ていて、残念ながらBICEPで可能な精度では、Bモード偏光はまだ発見されていないそうだ。

 しかし、だからといって失敗というわけではない。

「僕たちの望遠鏡は、それまでの観測よりも10分の1以下にノイズを下げられたんですね。それで、ある理論では、これ以上の強さの重力波だったら、Bモードは見えてもおかしくないところまで行けたんです。でも、見えなかった。つまり、その理論を否定することになった。その理論が駄目でも、もっと小さいBモード偏光が残っていると予測する理論もあるんですよ」

 つまり、あり得るインフレーション宇宙論の可能性を少し狭め、より確からしいものを絞り込んだとも言えるわけだ。

 それに、高橋さんにしてみれば、「月の南極に望遠鏡を設置する前に、地球の南極でも望遠鏡を設置してみたかった」という目的もあったわけで、まさにその意味では充分すぎるくらい、将来へのシミュレーションになっているのだった。

1970年代から使われていたドーム状の基地から、新しく出来た基地に国旗を移動する直前の記念写真。この日、高橋さんは日本の国旗を新しい位置に移動する手伝いをした。
(写真クリックで拡大)

つづく

高橋有希(たかはし ゆうき)

1979年、米国イリノイ州生まれ。すぐに帰国し、日本で育つが、宇宙飛行士になることを夢見て高校入学時から米国に移住。2001年、カリフォルニア工科大学物理学部卒業。英国グラスゴー大学天体物理学部にて月面望遠鏡の提案に励み、2003年、修士課程修了。博士課程からはカリフォルニア大学バークレー校物理学部に籍を移して、宇宙の起源を探る望遠鏡を開発し、2010年、博士号を取得する。2011年から2012年まではスペースX社航空電子工学部門にてドラゴン宇宙船の開発に従事。現在はサンフランシスコの新しい宇宙ベンチャーで技術開発に携わる。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider