第2回 「月の南極」から「地球の南極」へ

「いくつかあったんですけど、ひとつはグラウンド・シールドです。地面といいますか下にある雪と望遠鏡を絶縁するためのものでした。僕たちの望遠鏡から見ると、南極の雪の表面はすごい熱いものなんです。望遠鏡はもう絶対温度で1度(1ケルビン)以下のものすごく微妙な温度変化を観測しているんです。撮像素子もノイズを減らすため、液体ヘリウムで0.25ケルビンまで冷却していました。一方、南極の地面は、摂氏でマイナス40℃だったとしても、絶対温度では230ケルビンくらいなんですね。だから、それをブロックするためのシールドをデザインして設置したんです」

 南極の氷が熱い! それも230度、温度差でいえば、氷点の水を2度沸騰させても足りないくらいの水準で。天体撮影でカメラの撮像素子のノイズを減らすために冷却するのはよく聞く話。アマチュアレベルで普及しているのは摂氏でマイナス数10℃、つまり南極の氷と同じくらいの冷たさだ。しかし、宇宙の起源を探るためには、想像を絶したさらに厳しいレベルの低温での観測が必要なのだ。

高橋さんが受け持っていたグラウンド・シールド。地面からの熱をブロックするだけでなく、内側の筒状の部分が不要なミリ波を吸収する2段階構造になっている。(写真提供:高橋有希)
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つづく

高橋有希(たかはし ゆうき)

1979年、米国イリノイ州生まれ。すぐに帰国し、日本で育つが、宇宙飛行士になることを夢見て高校入学時から米国に移住。2001年、カリフォルニア工科大学物理学部卒業。英国グラスゴー大学天体物理学部にて月面望遠鏡の提案に励み、2003年、修士課程修了。博士課程からはカリフォルニア大学バークレー校物理学部に籍を移して、宇宙の起源を探る望遠鏡を開発し、2010年、博士号を取得する。2011年から2012年まではスペースX社航空電子工学部門にてドラゴン宇宙船の開発に従事。現在はサンフランシスコの新しい宇宙ベンチャーで技術開発に携わる。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider