第2回 「月の南極」から「地球の南極」へ

 なお、高橋さんが日本で読んだホーキングの本は、宇宙の起源にかかわる、いわゆる宇宙論に関するものだ。ベストセラーになったので買った方も多いと思うのだが、背景知識がある程度ないと途中で置いて行かれる。しかし、行間に夢が詰まっている。高橋さんは、今でもその本の影響を語るくらいで、宇宙の起源の研究や宇宙論への興味も少年時代から続いていたのだった。

 望遠鏡の名前はBICEP(バイセップと読む。Background Imaging of Cosmic Extragalactic Polarization)、ビッグバン後の宇宙の急膨張「インフレーション」の証拠を見つけるための研究だったそうなのだが、細かい点はのちに戻ってくることにして、話を先に進めたい。

「──なぜ、南極なのかといいますと、僕たちが求めていたのは、すごく微弱なシグナルなので最適な条件が必要だったんです。カメラと同じように、露出をできるだけ長く、素子もできるだけたくさん使って。観測していたのは、ミリ波という電波なんですが、電子レンジと同じで水分があると吸収されちゃいます。だから、できるだけ乾いている所のほうが観測にとってはいいんですね。南極は地上の中でもすごく温度が低いので、その分乾燥してるんですよ(註:気温が低いと空気中に存在できる水蒸気も少なくなる)」

「──しかも南極点の場合、標高が2800メートルもあるんです。だからミリ波にとって、地球上で一番空気が透明な場所と言っていいんです。さらに、2月から10月まで南極の冬の期間はほとんどずっと夜です。真上にある天の南極を中心に宇宙がグルグル回るだけで、地平線の下に消えることがない。つまり、宇宙のある場所を観測しようとしたら、その間、ずっと見えるところにあって、追尾しつづけることができるんです」

 南極点というのは、様々な意味でプロジェクトにとって最適な場所だったのである。

これが望遠鏡の建物で、手前の桶状の囲いのなかにBICEP望遠鏡がある。向こう側の白い円形のものはSPTという別の望遠鏡。(写真提供:高橋有希)
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