そのチューニングに必要なものとは、どんなものでしょうか。

「たとえば、優れたネジ一本です」

 考える頭でも、測定する腕でもなく、ネジ。

「サンプルを測る器の中は高真空状態にします。たとえば窒素を測るなら、窒素は大気中、そこらじゅうにいっぱいあってジャマになるので。高真空状態を作るには、ポンプの技術も必要だし、シールの技術も必要。日本の町工場の技術に支えられているんです」

 大河内さんは、ガラスの筒を掲げて見せる。

「この筒は、二本のガラス筒を繋いで作ったものです。ずっと同じ職人さんに作ってもらっていたのですが、病気で入院することになって、別の職人さんが作るようになった。すると、その人が作るものは、すぐにダメになってしまうんです。元の職人さんの退院を待ちわびましたよ。研究の現場って、そんなことばかりです」

 少し時計の針を戻す。
 大学院生の頃、大河内さんは、気候変動を研究する研究室に所属し、堆積物のコアの分析をしていた。コアとは、さきほども少し触れたとおり、海底から引き上げてきたサンプルである。
 分析を重ねるごとに、あることに気がつき始めた。

「できあいの装置を使って、昔の誰かが決めたようなルールに沿って測っているだけでは、誰がやっても結果は同じ」

 目の前にあるサンプル中に「含まれているのに、測定しきれていない情報」があることにも気がついていた。

「分析装置の検出限界ぎりぎりのところをじっくり観察していると、そこにはまだ誰も手を付けていない重要な情報が隠されていそうだということが見えてきます。もっと情報を取り出せるはずやのにもったいないなあって。なので、僕は機械を自分で改良してでも、誰も測っていないものを測れるようにしようと思いました。そうでもしないと、この業界では、一流にはなれても超一流にはなれないというのもわかってきていたので」

 一流にはなれても超一流にはなれない。
 こういうことをさらりと言える人ってなんてカッコいいんだろう。

「こうしたガラスの筒1本が、実験の成否を分けるんです」(写真:田中良知)
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