大河内さんたちは、ウナギの稚魚を手に入れた。体長2ミリほどのそれをさばき、酸で煮てタンパク質を分解してアミノ酸とする。そのアミノ酸の中には、ターゲットである窒素(N)も含まれている。
 酸で煮るという言葉に取材陣はおののくが、「ここまでは比較的簡単です」。

 次にそのアミノ酸を“修飾”する。これはその後の測定をしやすくするための作業である。修飾後のアミノ酸は、同位体測定装置にかけられる。するとどうでしょう、そのアミノ酸を構成する窒素のうち、何割が14Nで、何割が15Nかがわかる。

 自然界に存在する15Nは窒素全体の0.36%だ。しかし、体の中ではそうはなっていない。
 15Nの比率が少しだけ高いのだという。

「それには、代謝が関わっています」

 体に取り込まれたアミノ酸の窒素は、体外に排出されるときにはアンモニア(NH3)となって出る。つまり、体の中でまず窒素はアミノ酸と手を切り、アンモニアになるという化学反応を経る。

(写真:田中良知)
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「その結合が切れるエネルギーが、15Nと14Nとで違うんです。15Nは切れにくく、14Nは切れやすい。だから、14Nはその後アンモニアになりやすく、15Nは体に残りやすいということになります」

 動物の体は、14Nを(なるべく)通し、15Nを(なるべく)せき止めるフィルターのようなもの。代謝を続けていると、体内での15Nは一定の割合にまで増える。
 ということは、食物連鎖の上の方に行けば行くほど、体内の窒素に占める15Nの割合が高くなる。
 だから、同位体の比率を調べると、食物連鎖のピラミッドのどのあたりにいるものを食べているのかが、わかるのだ。

 ウナギの稚魚で言えば、動物プランクトンだけでなく、植物プランクトンも食べていることがわかった。4つの有力な選択肢のうちで植物プランクトンを含むものはただひとつ、マリンスノー。ゆえに、マリンスノー説を支持するにいたった。

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