トーニャとじっくり話すのは、この電話がはじめてとなる。

 同い年ということもあって、話に花を咲かせていると、スティーブが台所に立ちはじめたのが横目に見えた。

 実は、網漁で獲った魚を、私たちは、まだ食べていなかったのだ。

 湖から帰ってくると、疲れて料理もせずに、パンをかじって寝てしまったのだ。

 スティーブがニコリと微笑んで、
「これから、魚を料理するよ」と言った。

 その顔を見たら、男料理もいいもんだと思い、自分で料理をするよりも、「お願いします」と言う気分になった。

 けれど、トーニャとの電話を切って、しばらく何も考えないような時間が流れて、それから、ふと、あることを思い出した。

 そう言えば……、

「あ!」
「ダメ!」
「やっぱり、ダメ~」

 魚をさばこうとするスティーブの手を、私は止めた。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/

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