リスク・テイカー 危険覚悟の挑戦者

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ネコの病を探求

ヤロスラフ・フレグル

文=パット・ウォルターズ 写真=マルコ・グロブ

ヤロスラフ・フレグルはチェコ出身の進化生物学者。1990年、彼は自分がある原虫に感染していることを知った。通常はネコに寄生し、その体内で繁殖するトキソプラズマだ。トキソプラズマ原虫は、ネコ用トイレの砂や汚染水を介してしばしば人間に感染するが、ネコからネコに感染するときはネズミに媒介される。原虫はネズミに寄生するとその脳を“乗っ取る”。すると、ネズミはより活発になって、危険を恐れなくなり、さらに、ネコの尿の臭いに性的に惹かれるようになる。つまりネコに食べられる可能性が高くなるのだ。こうした一連の知識を得たフレグルは、ある大胆な仮説を思いつく。トキソプラズマが彼の脳をも支配しているのではないかと考えたのだ。同僚たちは一笑に付したが、今では彼の直観が正しかったことがわかっている。

――トキソプラズマに支配されていると考えたのはなぜですか?

そう仮定すれば、私がとる不可解な行動を説明できると思ったんです。つまり、自分に利益はないけど、新たな宿主を探す寄生虫にとっては都合の良い行動です。私は車にクラクションを鳴らされても飛びのきませんでした。後で知ったことですが、トキソプラズマに冒された人は交通事故に遭う確率が2.6倍も高まるんです。

――トキソプラズマに感染すると、脳にどのような影響があるのですか?

用心深さも薄れがちになりますが、反応時間が極めて遅くなるので、交通事故に遭う危険性が高まります。ネコの尿の臭いを好むようになった男性患者もいます。

――今では権威ある科学者もあなたの説を認めていますが、当初は酷評されましたね。

私自身も、最初は観察結果が信じられませんでした。でもこれは事実です。トキソプラズマは年間数十万人を死に至らしめ、統合失調症とも関連している可能性があるのです。これは重大な問題です。でも残念ながらまだ治療法は見つかっていません。

――大胆な仮説があなたの特徴と言えますね。それで苦労することはありますか?

 一流の学術誌に論文を送っても、まったく相手にされないことがあります。斬新な主張をするときの問題は、まともな科学者と見なされなくなることです。たとえば、ダーウィンの理論は修正が必要だと論じたときがそうでした。でも私は、誰も研究しないようなテーマが好きだし、今の仕事にまったく不満はありませんよ。

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