第3回 儀礼と風習からみるマヤ文明の精神世界

身体を変形させる風習が盛んだった?

 儀礼だけではなく、マヤ人には興味を引く風習もある。子どものときから眉と眉の間に樹脂のかたまりをぶらさげて、それを両目で見る訓練をしていたと、マヤ人を征服したスペイン人が報告している。土器や石碑に出てくる王族や貴族の目に、そのようにして作り出された斜視がはっきり描いてあるものもある。「キニチ」という太陽神が斜視で表現されることもあり、斜視が神聖で価値の高いものだと考えられていたのだろう。

 歯に切れ込みを入れたり、宝石類などを埋め込んだりする「歯牙変工(しがへんこう)」という風習もある。歯を削る風習は、日本の縄文時代に行われていた「叉状研歯(さじょうけんし)」にも見られるが、マヤ文明の場合、日本よりも広い地域で行われていた。多くの墓から「歯牙変工」が発見されており、前歯数本を削って「T字形」に見せたものや、鍵状に削ったものなど、バラエティに富んでいる。

 歯を削る技術は相当の熟練が必要だったと思われ、歯を削る時にはかなりの痛みがあったと推測できる。従来の説ではおしゃれの一つだったとする考え方もあるが、それだけの理由とは思えない。「歯牙変工」は前歯にほぼ集中しており、人に見せることを意図して行っていたことは間違いないだろう。ヒスイという緑色の石を埋め込んである歯を持った人物は、副葬品との関連からも社会的な地位が高かったことがうかがえる。また「T字形」は、現存する4つのマヤ人による絵文書のうちの1つである『ドレスデン絵文書』に出てくる雨の神や太陽神「キニチ」の前歯にも認められることから、「歯牙変工」された人物は、神と関係した宗教儀礼でも大切な役割を果たしていたと考えられる。また、通過儀礼の一種だった可能性も指摘されている。