ピカピカ光る大きな疑似餌になってイカをおびき寄せる代わりに、私は潜水艇のライトを消し、暗闇のなかでじっとその瞬間を楽しんでいた。地球上のほかならぬこの場所を独り占めにした人間は、それまで誰もいなかったはずだ。ハダカイワシやイカ、ほっそりしたウナギ(砂泥の穴に頭からもぐりこんでいったと思ったら、すぐにまた姿を現した――やっぱり頭から!)でいるのは、いったいどんな感じなんだろう?

 人間は、誰もが「光を求める」べきだと思いこんでいるが、私はビロードのような漆黒の闇に包まれながら、ほとんどの動物は暗闇での生活に見事に適応できるということを、痛感したのだった。

機械では記録できない深海体験

 しかも、このとき私がいた水深では、1平方センチあたり600キロ以上の水圧がかかっている。私の場合は、鋼鉄製の船体と透明アクリルの保護ドームに守られていなければ、とても生きてはいられない。けれども、ここにすむ生き物たちにとっては、この水圧が当たり前なのだ。

 柔らかい白い砂に体を半分うずめた深紅色の小さな魚を見つけた私は、そちらのほうへ潜水艇をゆっくり移動させた。その出っ歯で平べったい顔を撮影するのに夢中になりすぎて、ライトが描く小さな円の端を銀色に光るものがさっと通り過ぎるのを、もう少しで見逃すところだった。

 潜水艇と同じくらいの大きさのマンボウが滑るように行き過ぎ、やがてもう一度様子をうかがいに戻ってきた。私は深紅の魚をほうり出し、急いでマンボウにカメラを向けた。すると、大きな円盤状のこの魚がちょうどいいタイミングでこちらに体を傾けてきて、その顔と馬のように大きな目をカメラに収めることができた。

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る