第15話 コテコテラーメンの前で「待て!」?

 食べたくても、食べさせない。

 早食い、大食いではなく、少しづつ、少しづつ。

 オリバー爺さんの言う理想の火を想像してみると、まるで、美味しいものの前に、「待て!」をさせられている犬のようなものである。

 私など、脂ぎった豚カツも、コテコテのラーメンも大好きで、目の前にあったら、食べずにはいられない。

 そんなことを考えながら、赤く揺らいでいる火を見ていると、肉のかたまりの前に、よだれをたらしているブルドッグにも見えてきた。

 私は、オリバー爺さんに言った。

「野獣に、ゆっくりと食べるマナーを教える調教師のようなものですね」
 オリバー爺さんは、微笑んで言った。

「そうじゃ、火は野獣じゃ。でも扱い方しだいで、よく言うことを聞く犬にもなるぞ」

 どうやら、それを身につけるには、経験と勘がいるらしい。

 私には、まだまだ修行である……。

 でも、この寒さの厳しい原野で暮らす人の、「火のわざ」に触れた気がした。

つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/