3つの水槽は、それぞれ、少しずつ環境が異なっている。

 まずひとつめには、ゴエモンコシオリエビが胸毛で飼っているバクテリアの好物である硫化水素を加えている。それからもうひとつには、水素をプラス。水素はひとつめの水槽にも加えているが、量が違う。

 どちらの水槽でも、ゴエモンコシオリエビは生きている。

胸毛1本の電子顕微鏡写真。毛にびっしりと繊維状のバクテリアがまとわりついているが、これらは硫黄酸化細菌だ。メタン酸化細菌は奥に隠れて見えない。(提供:JAMSTEC)

 あれ、ちょっと待って下さい。ゴエモンコシオリエビの胸毛で生きているバクテリアには、硫化水素かメタンガスが必要なのではありませんでした?

「アメリカの研究で、硫黄酸化細菌は水素でも生きられるかもしれないと発表されました。なので、実際に水素を与えてゴエモンコシオリエビが生きられることを確認しています」

 硫化水素やメタンガスをエサとするバクテリアがないなら、水素をエサとするバクテリアを食べればいいじゃない、とマリー・アントワネットなら言いそうなシチュエーションだ。

 それから、みっつめの水槽には、硫化水素も水素も添加していない。何も添加していない。エネルギー源は無添加の状態だ。これは、メタンガスや水素の有効性を確かめるための基準のような役割を果たすはずなのだが、それなのに、ここでも、ゴエモンコシオリエビは生きている。

「捕獲してから3カ月間くらいは、捕獲時にすでに胸で飼っていたバクテリアをエサにして生き延びます。その後は、この水にほんのわずかに混じっている物質をエサとするバクテリアを新たに胸で飼って、それをエサにしているようです」

 ということは、エサのエサ、つまりガスを与えなくても、ゴエモンコシオリエビは生きていけるかもしれないということ。深海の限られたところにしか生息しなかった生き物を、環境の違いを超えて、たとえばいつか自宅の水槽で飼える日が来るかもしれない。

「飼いたいです」とY尾。
「育てて増やしてひと儲けしましょう」とK瀬。

 こんな発言にも、和辻さんは優しいのだ。
「ゆくゆくは養殖に成功して、お金持ちになりたいですね(笑)」

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