JAMSTECのエビカニの研究者・和辻智郎さんは、深海で暮らすヤドカリの一種・ゴエモンコシオリエビの生け捕りと飼育に成功した。これは世界でもなかなか例を見ないことだ。
しかし、数ある深海生物のうち、なぜゴエモンコシオリエビなのか。そこには二つの理由があった。ゴエモンコシオリエビ固有の理由。そして、和辻さん固有の理由である。
ワイルドなゴエモンコシオリエビの胸毛、正しくは腹側剛毛と呼ばれる脚の間の毛には、バクテリアが住んでいる。このバクテリアは、熱水とともに噴き出すガスを体内に取り込み、それをエネルギー源として有機物を合成している。硫化水素をエサにするのは硫黄酸化細菌、メタンガスをエサにするのはメタン酸化細菌といった具合に呼ばれる。
そしてゴエモンコシオリエビは、この細菌、つまりバクテリアを食べて生きている。
「ほら、見て下さい。脚を使ってこそいでいるでしょう。こうやってエサであるバクテリアを、口の方へ運んでいるんです」
「おおお。本当だ。すごい、すごい」
感激しているY尾の背後からK瀬がのぞき込む。
確かに、普段は折りたたまれているという、退化の過程にあるような細くて小さな後ろ脚と、顎脚(がっきゃく)と呼ばれる器用な手で、「苦しゅうない」といった雰囲気で毛を撫でている。
動画:ゴエモンコシオリエビの採餌。「苦しゅうない。もっと近う」(47秒)(提供:JAMSTEC)