File1 深海エビを飼う男 和辻智郎

第1回 胸毛がワイルド!ゴエモンコシオリエビ生け捕り作戦

 体温が伝わらないよう、厚手の手袋をすれば触ることもできる。殻はさほど頑丈ではない。

 その殻は、ザリガニよりは柔らかく、クルマエビよりは堅いそうで、もしかすると、天ぷらにしたらおいしいのでは。とってもお高そうですが。

 水槽の中には、小さく区切られたエリアがあって、そこには直径3ミリほどの玉が、一目では数え切れないほど収まっている。

「卵です。一個体につき50以上産みます。わりとしっかりした卵です」

左はゴエモンコシオリエビの卵。右は孵化したあとの幼生。ここから先の飼育にはまだ成功していない。(写真左:田中良知、右:JAMSTEC)

 水槽で生まれた卵は、なんとか孵化まではたどり着くものの、その先の飼育には成功していない。市販の甲殻類繁殖促進剤(脱皮を促すものだそうです)も試したが、「脱皮を続けさせるのが難しいんです」

 そして今ごろ気がつきましたが、こんなに長時間、深海の生物を蛍光灯の下で見ていて大丈夫でしょうか。さっきから、ストロボもガンガン焚いていますが……。

「大丈夫です。光に対してこれまで反応したことはないです。目は退化しているんでしょうね。目があっても深海では、光はないので何も見えませんが」

 ゴエモンコシオリエビは、さほど熱くないどころか痛いと感じるくらいの冷たさの環境で生きている。つまり、熱水噴出孔にたむろしている理由は、熱を求めてというわけではない。

 ではいったいそこに、何があるのか。熱水と一緒に、エサでも湧いているのか。

 現実は、素人の考えを遙かに超えている。湧いているのは硫化水素やメタンなどのガスである。これは、ゴエモンコシオリエビのエサのエサ。

 このことが、和辻さんをゴエモンコシオリエビに夢中にさせている。ただ単に、飼って楽しんでいるわけではないのだ。

「第2回 暗黒世界のサバイバル術」につづく

この記事は日経ビジネスオンラインとの共同企画です。
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片瀬京子(かたせ きょうこ)

1972年生まれ。東京都出身。98年に大学院を修了後、出版社に入社。雑誌編集部に勤務の後、09年よりフリー。共著書に『誰もやめない会社』(日経BP社)『ラジオ福島の300日』(毎日新聞社)など。