File1 深海エビを飼う男 和辻智郎

第1回 胸毛がワイルド!ゴエモンコシオリエビ生け捕り作戦

(写真:田中良知)

「熱水域の海水にはメタンや二酸化炭素など、たくさんのガスが溶けています。実は、ガスのたくさん溶けた水の中で生活する生き物の体には、たくさんのガスが溶けているんです。そのため、深海から生物を引き上げると、体内で気泡化が起きやすいんです」

 ガスがたくさん溶けた環境にいる生き物は、体内で気泡化がおきやすい。
 なるほど。

 ……。

(Y尾さん、言われてることわかります?)

(いや、ちょっとわからない)

 Y尾もK瀬もお手上げである。すみません。おっしゃっていることが、よくわかりません。

「ええっと、ペットボトルに入った炭酸水をイメージしてください。ペットボトルの中にはたくさんのガス、二酸化炭素が溶けていますよね。ペットボトルがゴエモンコシオリエビの体で炭酸水が体液だと思ってください。ペットボトルの蓋を開けるとどうなりますか? 水から二酸化炭素がシュワッと抜けていきますよね。これは、蓋を開けることでペットボトル内の圧力が下がり、溶けていた二酸化炭素が気泡化する現象です。つまり圧力が下がると、これと同じことがゴエモンコシオリエビの体の中で起こるんです」

 なるほど。

「ゴエモンコシオリエビとペットボトルの違いは、呼吸をするかしないかの違いです。ペットボトルに入った炭酸は蓋を開封しない限り、抜けませんよね。でも、ゴエモンコシオリエビは呼吸するので体内に溶けたガスと周囲の水に溶けたガスが入れ替わるんです」

 それもわかる気がします。

「だから、水を替えたんです。一気に引き上げてシュワッとなる前に、熱水域から離れたところで入手した、あまりガスの溶けていない海水に替えてやる。すると、呼吸によってゴエモンコシオリエビの体内のガス濃度も低くなる、ということです」

 ガスをある程度吐ききった頃合いを見計らって、また、水を替える。その繰り返しの結果、生け捕りに成功したのだ。