第10回 生き物のスピード競争

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 海中にもサンフラワー・スターという1時間にじわじわと9メートルも動くヒトデがいる。お前はそれでもヒトデなのか、と意見してやりたい気もする。「はい、ヒトデナシです」なんちゃって。

 哺乳類の脊髄に沿って進む信号(活動電位)の最高速度は1秒間に120メートルだ。これは痛みが脳に伝わる速さ、というふうに解釈していいのだろうか。だとすると「生物の成長限界」ということに関係してきて面白いデータになる。

 アナコンダの最長限度は14メートルだという。このことをわかりやすくするために、長さ1キロのアナコンダを考える。ものすごく長いヘビだ。こいつの尻尾をなにか歯のするどい奴が噛みついたとする。痛みは神経組織を伝わって脳にやってくる。長さが1キロもあると痛みがアナコンダの神経組織を伝わって脳に達するまで100秒かかるという。100秒あればしっぽを10メートルぐらいかみ切れられる可能性がある。アナコンダは100秒後に「あれ? なにかオレの尻尾がヘンだ」と感知し、尻尾を動かすよう神経組織に伝える。その指令が尻尾に到達するまでさらに100秒かかる。そのあいだに20メートルかみ切られてしまっていたらもうアナコンダは生きていけない。

 ではその10分の1の大きさ、100メートルのアナコンダはどうか。これでもまだ大きなタイムラグがある。野生動物としては致命的だ。14メートルが瞬時に痛みが端から端に伝わる限度であり、ゆえにその長さがアナコンダの成長限界というわけなのだ。

つづく

椎名誠(しいな まこと)

1944年、東京生まれ。作家。『本の雑誌』初代編集長、写真家、映画監督としても活躍。『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞、『アド・バード』で日本SF大賞を受賞。近著の『わしらは怪しい雑魚釣り隊 エピソード3 マグロなんかが釣れちゃった篇』(マガジン・マガジン)、『そらをみてますないてます』(文藝春秋)、『足のカカトをかじるイヌ』(本の雑誌社)、『どーしてこんなにうまいんだあ!』(マキノ出版)、『ガス燈酒場によろしく』(文藝春秋)ほか、著書多数。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttp://www.shiina-tabi-bungakukan.com/