第9話 穴熊式、掘っ立てベニヤ小屋暮らし

 料理や暖房は薪ストーブを焚いて、自分で火の世話をしなければならない。

 こんな所に来る人は、不便を楽しめるような希少な人であろうし、つかの間の休暇旅行で観光だけしたいという人には、全く向いていない。

 最近の一番新しいお客さんは、2年ほど前に本土から来たアメリカ人で、私のように物書きだったという。 

 夏の1カ月間をここで過ごして、その体験記を本国アメリカにて出版したのだという。

 約3億1千万人、世界人口3位のアメリカ本土で出版されたのだから、アメリカ人にとっても、ここはよほどユニークな所なのだろう。

 それぐらい辺鄙過ぎて、滅多にお客さんが来ないし、経営者のトーニャ自身が留守なのだから、お客さんを受け入れようもない。

 だったら、角のキャビンに泊まってもいいじゃない?

 と思うものの、なぜか、私の心の底が、何か違うのだ。

 可愛くもなければ、かっこよくも無いこの簡素なベニヤ小屋に、どういう訳か引き込まれていく。ヘラジカの角に惹かれながらも、やっぱりここでいいか、という気になってきたのだ。