世論調査会社メルマン・グループが1990年代半ばに実施した調査によると、「アメリカ人は海洋の問題の原因は数多くあると考えているが、元凶は石油会社だとみなしている」ことがわかった。そればかりか、アメリカ人の81%が石油流出はきわめて重大な問題だと考えている。現実に、流出が起これば重大な問題を引き起こす場合があるのは確かで、1960年代以降たびたび発生しては、一般市民の怒りを買ってきた。

 なかでもとくに世論の怒りを爆発させたのは、1989年4月に起こったエクソン・バルディーズ号の事故である。アラスカのプリンス・ウィリアム湾を航海中のこの石油タンカーから、約25万バレルのアラスカ原油が自然のままの海に流れ出したのだ。

 事故の翌月、私は科学者として私心なく事にあたろうと自分に言い聞かせながら、流出現場の評価に向かった。油膜に覆われた海岸の岩を、足を滑らせながら乗り越えて、油がたっぷり染みこんだ砂をかきわけ、かろうじて動いている油まみれのカニを拾いあげた。浮いた油でぎらぎら光る水面を見わたすと、ラッコの子どもたちの物悲しい鳴き声が聞こえた。もう油は拭いとられていたが、バルディーズ号の船上にある檻のなかですっかりおびえた様子で身を寄せ合っていた。

 身も凍るほどの悲惨な状況が次々と明らかになってくるにつれて、公正な目で見ようという私の意志はもろくも崩れ、それと同時に、人間の本性に対する絶望感に襲われた。このような大惨事を引き起こしたばかりか、わずかな流出ですんだかもしれない事態をアメリカ史上最大の流出事故にまで拡大させてしまうとは、なんという無関心だろう!

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