第9回 眠れない人、眠らない人

 人間が眠らずにどのくらいの時間耐えられるか、という実験はナチスが行っているが、『歴史を変えた!? 奇想天外な科学実験ファイル』(アレックス・バーザ著、鈴木南日子訳・エクスナレッジ)では1963年にアメリカのサンディエゴ高校のガードナーという生徒が11日間、264時間眠らなかった実験を紹介している。

 実験者も被実験者も高校生で友人同士だった。その変化をみると、2日目に頭がぼんやりして集中力がなくなり、3日目には怒りっぽくなり、4日目には小さな悪魔たちが目の裏でけんかをはじめている幻覚をみる。さらに日がたつにつれてロレツがまわらなくなり、煩雑にめまいがし、目の焦点がなかなかあわなくなった。実験者の友人たちはガードナーにつきっきりで(トイレに行っても常に話かけ)絶えず刺激をあたえ、ずっと話しかけていた。横になるとガードナーはすぐに眠ってしまいそうだったという。そして無事264時間の世界記録を樹立した。

 けれどその13年後の1977年に、英国のモーリーン・ウエストンがロッキングチェアに座りながら449時間! 眠らないという記録を残し、断眠世界一になっている。

 人間が最長どのくらい眠らずにいられるか、ということはまだわかっていないらしい。

つづく

椎名誠(しいな まこと)

1944年、東京生まれ。作家。『本の雑誌』初代編集長、写真家、映画監督としても活躍。『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞、『アド・バード』で日本SF大賞を受賞。近著の『わしらは怪しい雑魚釣り隊 エピソード3 マグロなんかが釣れちゃった篇』(マガジン・マガジン)、『そらをみてますないてます』(文藝春秋)、『足のカカトをかじるイヌ』(本の雑誌社)、『どーしてこんなにうまいんだあ!』(マキノ出版)、『ガス燈酒場によろしく』(文藝春秋)ほか、著書多数。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttp://www.shiina-tabi-bungakukan.com/