第9回 眠れない人、眠らない人

 モノカキにも不眠症が多いと聞く。これは、夜、原稿仕事をしていると、どんな文章でも(たとえばぼくのようなぐうたら文でも)書いているときはそれなりにコーフンしているから、もの凄い大作を書いている人などはアドレナリンの噴出しまくりで、書きおわっても1~2時間は眠れないだろうな、ということはよくわかる。

 ぼくは主治医である精神科の医師と相談の上、いくつかの方向性が異なり、また強弱も違う「睡眠薬」を処方してもらい、そういうときに飲んでいる。軽く考えれば「頭痛薬」とか「胃痛薬」のようなもので、その症状が現れたとき、現れそうだという予感があるとき、それら作用の異なる「睡眠薬」の種類を自分で判断して服用している。そういうことが20年続いているのだ。その20年のあいだに、ゆるやかなウェーブを描くように自分のこの症状に「強弱」がある、ということに気がついてきた。

 簡単にいうと、同じ薬を飲んでもすぐ「効く」ときと「なかなかしぶとく効果がない」ときがある、ということである。そしてこれには一定の周期がある。

 一番顕著に「効かない」状態が出るのは1月から2月頃を頂点とする冬で、これもそれらに関連する書物から知った言葉でいえば「冬季鬱(うつ)」の時期と一致する。

 冬は部屋を暖かくして、よく乾燥したふかふかの布団にもぐり込み、あらゆる精神的拘束や鬱屈から解放され、一番条件的に安心して眠りに入れる時期であるのに、ぼくはこういう「安穏たる」状況がむしろストレスとなるのである。

 贅沢というかひねくれているというか、まことに困った症状で、これもカウセリングのときに訴えたのだが、ぼくの状態が(本人が申告しているほど)深刻ではないと見てとられたのか、直接的にそういう症状に対応するアドバイスや治療のプランはもらえなかった。たしかに、ぼくは、ぼくを知る読者などから「不眠症」などというデリカシーにからむ問題からいちばん遠いヒト、と思われているフシがある。