どれくらいの波を受けると転覆するのかわからない。

 いま自分の置かれている状況が、どの程度危険なのかもわからない。

 知らないということが、いっそう不安をかき立て、冷や汗が出てきました。

 もしここで転覆したら、カナダ側の北岸までかなりの距離を流されることになる。ライフジャケットを着けているけれど、流されている間に、水の冷たさで死んでしまうかもしれない……。

 <このまま揺られていたら、いつか転覆する。>

 ぼくは、波に対して垂直になるように、パドルを左側だけ力一杯に漕いで、カヤックの舳先を風の吹いてくる方角に向けました。

 南を向くと、視界の先には、対岸が見えないほど遠くまで、荒れる湖面が続いていました。

 その中を、無数の波が、絶えまなく押し寄せてきます。

 前方から来る波をひとつ越えるたびに、カヤックが前後にがたがたと揺れました。そしてまたすぐ次の波が来て、心の休まるときがありません。

 なんとか前に進もうと、パドルを漕いでみるのですが、ときおり波の山をつかみ損ねて、空中をかいてしまうことがありました。

 <これじゃあとても無理だ……>

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