第1回 ゲリラ豪雨、竜巻、ひょう、雷は予報可能?

 シングルセルとマルチセルの比較で言えば、後者の方が被害をもたらしやすい。ライン状になるマルチセルは世代交代をしながら長く持続するので、単体の積乱雲がもたらすよりもはるかに大量の雨を降らせる。特に、進行方向の後方に次々と新しい積乱雲を作る場合(バックビルディング型)、同じ場所を繰り返し新しい降雨が襲うことになりやすく、恐ろしいほどの総雨量になる。

 もっとも、ここまでくるとかなりの大きさの気象現象なので、現状での天気予報で対応できる。7月に起きた九州での豪雨も、メディアでは繰り返し注意喚起されていた。それでも、人命を奪う激烈な被害になってしまったわけだが。

 一方、シングルセルや、マルチセルでも小さくまとまったものは、現状の天気予報では小さすぎて予報が難しいので、真木さんたちの研究の領分になる。2008年の神戸市や豊島区雑司が谷、2010年の板橋区など、人命を奪った局所的なゲリラ豪雨は、まさに予測不能なものとして、積乱雲がいきなりの降水を地上にたたき付けた。

 真木さんたちの研究は、自身が開発に関わった観測技術のブレイクスルーに支えられている。

 その中核的な観測のハードウェアが、MP(マルチパラメータ)レーダだ。

国交省のMPレーダのデータ。観測網を全国展開する契機となったのが真木さんの研究だった。(写真クリックで拡大)

つづく

真木雅之(まき まさゆき)

1954年、愛媛県生まれ。理学博士。防災科学技術研究所観測・予測研究領域長。筑波大学連携大学院教授。1983年、北海道大学大学院理学研究科修士課程を修了。北海道大学理学部を経て、85年に国立防災科学研究所に入所して以来、気象レーダの開発および気象レーダによる自然災害の研究に携わる。2000年よりマルチパラメータレーダによる降雨量推定の研究を開始。現在は文部科学省科学技術振興調整費プロジェクト「気候変動に伴う極端気象に強い都市創り」研究代表者を務め、首都圏Xバンドレーダネットワーク「X-NET」による豪雨・強風監視技術の構築に向けた研究プロジェクトを進めている。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider