第2話 氷蒼の瞳の橇犬アンは耳が聞えない

 耳の聞こえないアンを橇犬として隊列に加えるのは、とても難しいことだ。

 犬は、マッシャーと呼ばれる橇使いが出す指示を聞きながら走る。例えば、

「ハイク!(走れ!)」
「ジー(右に曲がれ)」
「ハー(左に曲がれ)」
「ウォー(止まれ)」

 この4つの指示だけでも、進路を正確にとり、危険を速やかに回避して安全に走るためには聞き分ける必要がある。

 ところが、アンにはそれが、まったく聞こえていないのだ。

 以前、目が見えない犬を加えた犬橇の旅を記した本を、アラスカの本屋で見つけたことがあるが、その犬は、指示を聞き隊列をフォローすることで、目が見えないことを補っていた。

 けれど、耳が聞こえないというのは、出発や左右の転換の合図を出しても、遅れをとってしまい、一斉に走り出す犬たちに引きずられてしまうこともある。