第1話 深い荒野にきらめくピンクサファイアの粒子

 *      *      *

 アラスカ中部、レイク・ミンチュミナという場所は、マッキンリー山を抱え、野生動植物保護区とされるデナリ国立公園の西側境界線のちょうど外側に位置する。


より大きな地図で レイクミンチュミナ を表示

 ウエスト・デナリとも呼ばれていて、デナリ国立公園では見られないマッキンリー山の美しい角度を誇りながら、観光地として開発されなかったために、一般の客では訪れることが難しい。

 アラスカに住む人たちでさえ、この場所をディープ・ウィルダネス(深い荒野)と呼び、また、「あそここそが、本当のアラスカだ」と言う人も多い。

 それは、保護区から外れたことが幸いして、観光開発とは無縁の荒々しい大地とフロンティア時代の人々の暮らしを今も残しているからである。

 そんな奥深いアラスカの森の中で、私を待っていたのは、43匹の橇犬たちだった。

 そのなかには、耳の聞こえない犬、子犬の頃の事故で鼻呼吸ができなくなった犬、足の指のない犬、体が小さ過ぎる犬、虚弱体質の犬、そして、癲癇の症状を抱える犬など……。

 ユーコン・クエストやアイディタロッドなど、有名な犬橇レースの開催地として、多くのアスリート犬が輩出し、犬の数が飽和状態にあるアラスカにおいて、もしかすると、処分の対象になっていたかもしれない犬たちである。

 そんな、まるで不揃いなジャガイモたちのような凸凹橇犬たちと、私は、遠く世俗から離れた森の中で、厳しいアラスカの冬を過ごすことになったのだった。

 これは、その犬たちと私の、極寒汗だく越冬記である。

(写真クリックで拡大)

つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/