第5回 消滅危機言語をなぜ守らなければならないのか

「──東京で育った人でも、メールを打つときに、例えば関西弁を使って「あほちゃうか」とかね、私も関西は住んだことないのでわからないですけれど、東京でいう「ばかじゃない」は、非常にきついのに、あほやなーとかいうと、あんまり深刻にならずにコミュニケーションが進められる」

 そういえば、自分自身も、あまり深刻ぶらずに(しかし、じゅうぶん真剣に)意志表明をするときに、「……じゃけん」だとか、急に広島弁の語尾を使ったりすることがある。まったく広島に住んだことがないくせに、それがしっくりと感じられるのが不思議だ。さらに、種子島で、タネ弁をたくさん話せることが自慢である中学生の存在も、同じ方をむいた事例だと思えた。

 2009年のユネスコによる危機言語の発表は、言語の多様性を守る、という、比較的斬新な(しかし言語学的には古くからある)問題意識を提示した。この件は、多少、いや、かなり政治的なものを孕みつつも、様々な言語が存在することが、我々が日々生きる社会、生活を、より豊かなものにすると、強調するメッセージであると了解したのだった。

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おわり

木部暢子(きべ のぶこ)

福岡県生まれ。国立国語研究所・時空間変異研究系教授。「消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究」共同研究プロジェクトリーダー。九州大学大学院文学研究科修士課程を修了後、鹿児島大学法文学部教授、学部長などを経て現職。『方言の形成』(共著、岩波書店、2008)、『これが九州方言の底力!』(共著、大修館書店)などの著書がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
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