かねて知り合いだった雑誌「ビーパル」編集部の依頼で、キャンプしながらのインタビューを行なったのである。ゆっくり昔の話でもすることで、少しは気分転換になるかもしれない、と考えた。植村にとってはとてもキャンプの部類には入らないことは承知していたが、山菜をとり、野外料理をつくり、同じテントで眠ることは、私にとってはいい体験になるはずだったし、事実そうなった。

 日が暮れた頃、テントから少し離れた下の谷川で、養魚場で買った10匹ほどのイワナを植村が腹出ししてくれた。処理したイワナをバケツに入れて戻ってきた植村が、妙に緊張した顔をしていた。

 何かあったのかと尋ねると、「イヤ、イワナのお化けが出そうで」と短く答えた。北極圏で孤独な犬橇旅行を続けた大冒険家が、谷川に夜が下りてくるのを怖がったのである。私は頬笑みながらも、植村のなかにある繊細な感受性を思わずにいられなかった。

 冒険旅行での食べ物、とくにアザラシの生肉について。犬橇のこと。厳しい旅のさなか、テントで風の音を聞きながら思うこと。そんな話題が、とりとめもなく、思いだすままにくりひろげられた。

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