しかし、最初の挑戦では、この新手法がうまくいきませんでした。
船上からつながるパイプをウェルヘッドから切り離すことができなかったのです。海底に残しておきたい装置なのに、離れてくれなかったのです。
水中カメラは、がっちりくっついているパイプ接続部を映し続けるばかりで、それを食い入るように見つめる船上代表サルハシさんの両目は真っ赤に充血。両手で頭を抱え込みながら、なぜうまくいかないのか? 原因は何か? 必死で考えこんでいます。
ウェルヘッドを海底に設置できないことには、掘削も温度センサーの設置も始められません。そういう大ピンチを航海前半で迎えてしまったのです。
「たのむ、きてくれ・・・」
どんな局面でもどっしり構え、的確に作業指示を出すサルハシ隊長が、なにもない空を見上げながら、ポツリと、そうつぶやきました。この人はどれだけのプレッシャーに耐えながら、このミッションに挑んでいるのだろう・・・。わたしはそう想像を巡らせるしかありませんでした。
ウェルヘッドは、いったん船上まで引き上げられ、原因究明が進められました。切り離し装置そのものは、船上では設計通りに作動します。どうやら7000メートルもつなげたパイプそのものから、少しずつゴミが出て底にたまり、スイッチが入るのを邪魔していたようなのです。