第26回 虫がつくった究極の芸術作品

 葉っぱにできた、きれいなイソギンチャクのような造形作品。これはタマバエという、蚊のような小さなハエの幼虫がつくった「虫こぶ」だ。

 ぼくが研究している虫こぶについて、これまでの連載で触れたことはあったけど、虫こぶそのものの紹介はまだでした。今日はそのお話。

 虫こぶは、「小さな虫たちが植物につくり出す、究極の生きた自然芸術」。
 虫が植物の組織の中に入り込み、植物の成長をうま~く操作してつくり上げる。大きさや形、色、質感、内部の組織の構造や細胞内の成分までコントロールすることがわかっているから、それは職人技ともいえる。

 菌類やダニも虫こぶをつくるけれど、つくり手のほとんどは昆虫で、なかでもタマバエ科の幼虫の作品が多い。
 虫こぶの中は幼虫が住む部屋になっていて、その部屋の壁は幼虫の食料でもある。つまり虫こぶは芸術作品であると同時に、住処でもあり、食料でもある。「お菓子の家」を想像してしまう。

 コスタリカでは、これまでに1000種を超える虫こぶ職人が見つかっている。さらに調べれば、3000種を超えるだろう。

 それぞれの種類の昆虫が、それぞれ違った虫こぶを、それぞれ決まった植物の決まった場所につくる。つくる場所は葉、茎、芽、花、実、根などさまざまだ。例えば、ある植物1種に形の異なる10個の虫こぶが出来ていたとすると、それは10種類の違った昆虫による芸術作品というわけだ。

 日本でも、春から秋にたくさん見つかるので、この機会に探してみては?

タマバエ(双翅目:タマバエ科)の一種の幼虫が形成する虫こぶ
A gall induced by a species of gall midge (Cecidomyiidae)
最初の写真が、この虫こぶの接写。Psychotria monteverdensis(アカネ科)の葉の裏に、ぽこぽことイソギンチャクのようにできる。このタマバエは、ほぼ確実に新種。
虫こぶの直径:5 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
アカバナキバガの一種の幼虫が形成する虫こぶ
A gall induced by a momphid micromoth larva
この球形の虫こぶは直径が3センチあり、蛾が形成する虫こぶの中で世界最大かもしれない。枝や葉の柄にできる。サルやリスが好んで中の幼虫やサナギ(著者の研究材料)を食べる。虫こぶの右上の小さい茶色い点から成虫が出てくる。
通常の枝の太さ:3 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
アカバナキバガの一種の幼虫が形成する虫こぶ
A gall induced by a momphid micromoth larva
中央のハート形をした葉が虫こぶ。葉のない所に、葉をつくる。植物のもともとの葉の形とは異なるが、ちゃんと光合成を行って、虫こぶの基部に栄養を送っているようだ。上の球形の虫こぶをつくる種も、この種も新種だろう。
虫こぶ(葉)の大きさ:20 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ (写真クリックで拡大)
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html