第3回 それでもマグロを食べますか?

 だが、魚たちはこのルールに従わなかった。MSYは一見もっともらしいが、自然界の現実を無視した欠陥だらけの概念だったのだ。そもそも魚の生態も生息数も十分にはわかっていなかったし、ましてや「余剰分」など自然界に存在しない。人間には余剰と見えても、自然界では疫病や気候の変化などによる個体数減少に備えた保険なのだ。

 おそらく最も重要な欠陥は、魚類をはじめとする海の生物を、何よりもまず「商品」として捕獲すべきものとみなしていることだろう。生物多様性の維持、水の循環、地球の化学組成の形成、地球環境の安定といった、すべての人に恩恵をもたらす自然のままの海の役割は、脇に追いやられてしまっている。

 だが、一部の研究者らの廃止を求める声もむなしく、MSYは世界中の政策にしっかりと根を下ろした。1982年には国連海洋法条約に組みこまれ、以来、各国の国内法や国際法に次々と導入されていった。

 このように20世紀を通じ、「海の生物の持続的な大量捕獲は可能」とする楽観主義が漁業政策を方向づけてきた。加えて魚群探知の技術が大きく向上したこともあり、総漁獲量は1980年代まで増えつづけたのである。

©Image Courtesy of Sylvia Earle archives(写真クリックで拡大)