ナショジオ日本版 2012年6月号 香港 忍び寄る中国の影 サイドバー 取材現場から:写真家 マーク・レオン 中央政府に抗議するアーティストたち マーク・レオンが中国の取材を始めたのは1989年。同年6月4日に天安門事件が起きると香港で事件に抗議する人々を撮影した。それから22年たった昨年6月3日、香港の繁華街・銅鑼湾(コーズウェイベイ)で、今度はアーティストの集団が抗議行動をした。「彼らが使っている黄色には自由と平和、中国人という意味が込められている」と、レオンは話す。 ――ルナ・シアー レンズの裏側 ――この場面のどういうところに興味を引かれたのですか? レオン:自分の体を使って反政府的な主張ができると考えたのでしょう。そこに興味を覚えました。体中に貼っているのは、通りがかりの人たちにメッセージを書いてもらった付箋です。「正義と倫理」「私たちは忘れない」「活動家を釈放せよ」といったメッセージもありましたが、多くは「6月4日」や「6.4」といったものでした。 ――後方であおむけに寝ている人は何をしているのですか? レオン:彼もアーティストで、口に水を含んで、その中で小さなカニを泳がせています。中国の検閲を表現しているのだそうです(川にすむカニを指す中国語「河蟹」は、検閲を婉曲的に指す)。 香港はカメラを持ち歩く人が多いんです。「付箋男」は格好の被写体で、私はなかなか撮らせてもらえませんでした。もう一人が路上に横になって、人だかりがそちらに移った隙に、この写真を撮りました。 1985年の映画『未来世紀ブラジル』で、ロバート・デ・ニーロ演じる反逆者に紙がまとわりつく場面があるのですが、その場面を思い出しました。 この写真の特集 香港 忍び寄る中国の影 中国に返還されて15年。本土への経済依存が強まるなか、活況に沸いた自由の都はどこへ向かうのか。