一つは、自然を見るときに直観力(植村は直感と表記しているが)を頼りにしていること。そしてもう一つは、その直観力は、これまでの体験がいつも判断基準として働いていることである。氷河の姿も、足もとの雪質も、身をもって体験したヒマラヤのそれと比較されている。

 植村は冒険家だから、第一に行動の人である。ただしその行動には、いつも体験の積み重ねが導いているところがあった。このような偵察旅行にこそ、植村の思考法がよく見えるといえるかもしれない。

 植村はベルグラーノ基地に滞在中、さらにヘリコプターに乗せてもらうなどして、横断の可能性をさまざまな角度から検討した。

 基地はフィルヒナー棚氷の末端にあり、ずっと平らな氷原がつづく。クレバス帯があるにはあるが、かつてアルゼンチン隊がウィーゼル車によって南極点まで行ったとき、そのクレバス帯を無事通過している。自分はウィーゼル車よりずっと軽い犬橇でやるのだから、より安全に通過できるはずだ。

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